寝入り端、左方向で女性の声。

極端に短い一言で、「ナナミッ」とか言うような声が聴こえた。

9/27 朝６時より10分程前。就寝は４時くらいか。

新聞配達のバイクの音。薄暗い。

オチの実家のビル。その上の方の階にある一室に、深夜仲間が集まっている。作曲仲間だろうか。７、８人くらいが部屋の真ん中を占める４人がけテーブル二つに、それぞれ二組に別れて着席している。私は一番右端の奥、壁を背もたれにして座っている。左に座っているのはウチヤマくんかもしれない。そしてテーブルを挟んだ向かいには、先輩と思っている若い男性が座っている。こちらのテーブルにはこの３人か、あともう一人いたかどうかは覚えていない。もう一つのテーブル、そちらには５人はいただろう。というのも、誕生席のように、その狭い側の一片にオチが座っていたからだ。残りのメンバーははっきりしない。

私の向かいに座る先輩。その人は芸工大４年生の、私の嫌いな顔の学生に似ている。その先輩が電子音楽を作ってきた。みんなでその新曲を聞いているのだ。

単純なアナログ・シンセが発する電子音が鳴り響く。

大きく３つの部分に分れた曲である。それぞれ[a][b][c]と名付けると、[a]が原型で、その素直な動きを壊すように変形したものが[b]。さらに大きな振幅を持たせ、原型を留めぬほど隆起の激しい部分が[c]である。

[b]の部分を聞いている時、私はその音楽から抽象的な印象を思い描く。それは脳内で起きる現象、「一度通った回路を反復すると○○という....」が脳裏に浮かぶ。そしてその文章が書かれていた本にあった図解まで、頭に浮かぶ。

左手奥の誕生席にいたオチがいなくなり、代りに湯浅先生が座っている。遅れていらっしゃったようである。

私は[b]の部分最後で曲が終わったと思った。「ブブ、ブ、ブブブブ、」と[a]の同じ箇所では持続音だった終止音が[b]では途切れている。面白い。だが意に反して[c]が始まった。その振幅具合が興味深く、耳を傾けてしまう。

[c]の最後は「ブブ。ブブブ、ブブッ、ブッ」と不規則になる。さすがにここで終わりだろうと思う。きっとみんなもそう感じているはずだ。実際作曲者も頷いて、曲が終わったことを身振りで表していた。

ここまでみんな黙って聞いていたが、その沈黙を破るように私が笑いながら発言する。

「今度こそ本当に終わりだよね？！」と。

けれど、私にはまだ曲が続いているようにも思えた。微かにビートが刻まれているようなのだ。気の所為でなく、確かに太鼓のような音が鳴っている。だが、みんなは口をそろえて違う、と言う。

それはオチ兄弟が上の階で練習していたのだった。オチと湯浅先生が入れ替わったのも、オチがこっそりここを抜け出し、兄とやっている練習、深夜のリハーサルに参加したからだった。そうはっきりと自覚すると、その曲の続きだと感じたビートの上に、サックスが加わってきた。メロディーのある、サックス・ソロが聴こえてきた。

9/27 8:10より前

吹きさらし。地面はコンクリートで整えられ、屋根、というより覆いがあるのだろう。すぐ脇にある建物から蛍光灯の明かりが漏れて、そのお陰で暗闇は免れている。ここは深夜のガソリンスタンドのようだ。

私はとても気分がすぐれず、さっきから吐いていた。それで喉がいがらっぽく、口もからからだ。

ガソリンスタンドの隅の方にある流し場で、ゲーゲー音を発ながら吐いていると、黒いイガイガした虫が生きたまま出てきた。一匹どころではない。吐いても吐いても、次々に出てくる。一向に吐き気は治まらない。

場所がかわった。深夜、自宅の仕事部屋にいる。庭へ通ずる東側のガラス戸を開け、半身を出して吐いている。真っ暗な庭がずっと下の方にある。部屋は一階のはずだが、外の庭、地面まで３メートルはあるんじゃないだろうか。吐瀉したゲロは放物線を描き、その庭へと落下して行く。

吐いていて気付いたが、戸口の右手にあるクーラー室外機を設置した壁辺りから白いネットが被さったヤシが生えている。壁から直接生え、そのまま伸びて上方へ成長している。云わば逆放物線を描いて、その南洋植物は家の外壁から生えているのである。幹は果物を保護するのに使われる白いクッションネットで被われている。いや、被われているのかそれともそういう模様なのか分からない。先の方ははっきり見えない。枝も葉もない太い幹だけが逆放物線を描き生えている。

さらに視線を右に移すと、車の出入り口、私道側の通路脇、イトザキサンチと接する塀の所にハクビシンがいる。何か食べているのか、排泄しているのか分からないが、暗闇にハクビシンがいる。そのハクビシンが下からじっと吐いている私を見つめている。

吐いているものが今度は乾いた米粒になった。カツのコロモも交じっている。こんなものが身体の奥から湧き出すようにぼろぼろ出てくるのが気持ち悪いのである。

庭に吐き捨てているカラカラの米粒。きっとハクビシンはこの米粒を食べにこちら側の真下に来るだろうと思い始めた。すると、ニイカが後ろからやって来た。戸を閉めないとハクビシンに気付いたニイカがここから下の庭へ飛び降りてしまうだろう。そんな心配をして、ニイカが出ない程度に戸を開けて、その隙間からゲロを吐いた。

カナエサンが言うには、ニイカが出ても高い方の「せっかく　あかＸＸ　はんしＸでみえない」（字が判読できない）と私を安心させる。

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「赤い反射で見えない」かもしれない。ハクビシンの目、あるいは体が赤色だったような気もするのだ。

2007 9/27