深夜２時に見た夢

マコトが教えてくれた。折り畳み傘の先端部分、その黒いプラスティックのねじ込みキャップをはずす。そして、その中に仕込まれたさらに小さな黒いプラスティックの部品を口に含むのだ。

マコトが手本を示してくれる。それを口に含み、ヒューヒューと息を出すと、不思議な高い音が出る。そのまま言葉を発すると、妖精の歌声のようになる。

マコトはそうやって歌いながら、天使のように踊っている。

私も真似てやってみた。案外容易く音が出る。素敵な音だ。

とても気に入っていろいろやっている内に、口の中がじゃりじゃりし始める。その部品に付いていたと思われる、何か集合体をなした小さな物質が部品から外れ、それが口内を満たしているにちがいない。

ネジだ。プッ、と手の平に吐き出すと、それは精密機器に使われる緻密な作りの、ちいさなちいさなネジだった。あの部品と傘の骨を固定していたものだろうか。一つや二つではない。何十個、いや百近いかもしれない。まるで大粒の砂をもぐもぐしているような感じだ。とても気持ちが悪い。葡萄の種でも出すように、ぷっぷと吐き出すが、多すぎて、全部吐き出せない。

そうこうしているうちに全員席に着く。

そうだ。マコトといたのは、これからパパ・タラフマラのミーティングが始まるからだった。

丁度小中学校にあった理科室、その理科室で班ごとに分けられ、実験用の冷たいテーブルに４人一組で二人づつ対面して着席したよう、今も同じふう席に着いている。

随分久しぶりのミーティングだ。しばらく出ていなかったら、知ってる顔がほとんどいなくなってしまった。向かいに座っている子も新人なのだろう。初めて見る顔だ。劇団の団員という顔立ちではない。化粧や服装からして、比較的標準的な若い女の子だ。時代が変わったのだろうか。こういうお洒落をするような子がパパ・タラフマラに所属してるのが不思議に思われる。

その彼女の目の前で、私は小さなネジを次々に吐き出している。

始めのうちはプップと調子良かったが、段々出が悪くなってきた。一向に数は減らず、吐いても吐いても無くならない。唾液も一緒に吐き出してしまうので、その小さなネジが一つづつに分離せず、たくさんが固まって、団子のように黒い、粘りを持った固形物になってテーブルに落ちる。口が渇き、もう唾液も出なくなり、吐くのに難儀し始める。嘔吐に近くなっているのだ。

それでも無くならない。相変わらずネジが、口の中の、色んな部分にころがっている。奥歯と頬の間。あるいは、奥歯の奥、親知らずがあった場所に、二つくらいはまっているようだ。

一番恐ろしいのは飲み込んでしまう事だと思っている。どんな金属片でも嫌だが、ネジ、特に精密に作られたネジほど器官としての人体にそぐわないものはない。そんなものを誤って飲み込んではならない。そういう強迫感に襲われている。

だから早く全部吐き出したいのだけれど、前の席にいる女の子の視線が気になって仕方ない。パパ・タラフマラとは疎遠になっているから、相手は私がどんな人間かを知らないだろう。口から、得体の知れないものを吐き出し続ける私を、どう見ているだろうか。

冷たい、実験用のテーブルの上には、粘り気のある物質、既に吐き出されたネジの団子状の固まりが所在無げに、そのままになっている。そして吐き出す度に、粘度を増した唾液が糸を引く。

喉に違和感を感じる。ネジの一つが、その行き場を喉に求めたかのようだ。最も恐れていた事態になりつつある。

私はほんの少し椅子をずらし、彼女の視線を避けるように思いっきり吐く。しかしその違和感は無くならない。今まで食べたどんなものにも感じ得なかった、独特の感触。食べ物ではない異物が喉を通る恐怖。

もう人の目を気にしている場合ではなく、私は目を白黒させ、ゲーゲーしている。妖精の歌どころではなくなってしまった。

目が覚めると枕がびっしょりになっていた。半開きの口から唾液を垂らしていたのだ。時計を見ると２時だった。忘れないように、もう一度夢を反芻し、そのうちまた眠りに落ちた。

2005/12/18(日) 13:23:24