針

口で息をしている。閉じることができないのだ。

喉まではいかない。その手前、舌の付け根、奥の辺りだろうか。そこがいがらっぽいのである。だが唾を飲み込む訳にはいかない。うっかり飲み込めば喉に刺さってしまう。いや、喉を通って食道、胃へと下りていったらもっと酷い事になってしまう。さっき大量の針を頬張ったらしい。

口を開けて下を向いても落ちてこない。舌に刺さっているのだと思う。きっと鰊や秋刀魚の小骨みたいな細い針だ。

指を口に突っ込んで、刺さった向きに逆らわないよう慎重に一本ずつ抜いてゆく。意外と痛みはない。だが抜き取った細い針の先を見ると、そこが二つに分かれているのが判る。厄介なことに逆向きに、尖った方が戻されているのである。その枝分かれした部分までは刺さっていないからこうして抜くことが出来るのだろう。もし貫通していたら、きっと自分一人で抜くことはできない。

それにしても随分大量の針が刺さっているようだ。もう何本も抜いているのに口内の違和感は解消されない。

抜いても抜いても、きりがないのである。

とうとう我慢できなくなって唾を飲んでみた。

ごくん、と唾が喉を通過してゆく。

大丈夫なようだ。

違和感は残っていたが、針はもう全部抜いたのかもしれない。

2009年7月11日