また犬を飼うことにした。

子犬がきた。ニイカがちっちゃかった頃よりは大きく育った子犬。親元にしばらくいた子犬だ。

カナエサンと一緒になって犬をかまっている。遊んでやっているのだが、どうも今一つ何か足りない。そうだ、名前を付けていなかった。それまではつい「ニイカ」と呼んでいた気がする。ニイカじゃないのだから、新たに名前を付けてやろう。さて、どんな名前にするか。

リキミというのはどうだろう。いや、キミリ、キッちゃんとか。ニイカを「ニィちゃん」と呼んだように、略してキッちゃんというのも可愛い呼び名だ。カナエサンに意見を求めると、どれも気に入らない様子だ。

「キミリ？」....

気付くと一人でぼーっとテーブルに着いていた。新築の家のダイニングテーブルだ。

仕事を終えたオヂチャンたちが戻ってきた。そしてどやどやとそのテーブルに集まってくる。

「その席は上座だよ。」

年配の職人に注意されてしまう。そうだった。ぼーっとしていた。甥という関係でも職人たちの決まりには従わなくてはならない。叔父はここでは頭領なのである。

どうやら叔父が家を建て替えたようだ。その新築の家に来ていたのである。

トイレへ行きたくなった。

広い板張りのダイニングからそのまま左へ廊下が続いている。その廊下の途中右手にまた別の廊下が延びていて、そのずっと向こう、突き当たりにモダンなトイレが見える。

長い廊下を歩いてゆく。

トイレの前に立つ。入り口が二、三段高いところに設けられている。そしてデパートのトイレみたいに混んでいるのである。小学生がいっぱい出入りしている。段を上がったところにはビニールの安っぽいトイレ用サンダルが置かれているのだが、今出てきた小学生の男の子が脱いだそのサンダル、履こうとしたところ濡れているのに気付く。黄色い液体が溜まっているのだ。尿である。

靴下に尿が染みこんだらさぞかし気持ち悪いだろう。曇りガラスの開閉式ドアの向こうに小便用便器がぼんやり見える。そこで用を足したいのだが、このサンダルを履くわけにはいかない。

案外すんなり別のトイレをみつけた。

公園の外れに東屋風のトイレが建っている。そこは人気がない。空いている。ようやくゆっくり、用が足せるのである。

じょびじょびと音を発てて放尿している。

と、目が回ったのかと思うとそうではなく、トイレ全体が揺れはじめる。ブランコみたいに揺れる。

もう一人若い男が入ってきたのだ。

この東屋風トイレはブランコ構造になっていた。後から来たその若い男が面白がって、仲間たちと揺らしていたのだ。

昨夜からだったが、左肩に痛み。五十肩である。

二〇〇九年九月三日