役場の便所

どこかの村役場の受付。コンクリートうちっぱなしだから、近年作られたモダン建築の役場だ。その受付カウンターの前に立って横を向いている。コピー機に向かっている。

尿意を感じて、ここで用を足しているのだ。コピー機に向かって用を足している。

だが尿意はなくならない。放尿はしているのだが、一向に尿意が治まらない。

場所が悪いのだと思い始める。カウンター越しで下半身が隠されているとしても、受付嬢の前で横を向いて放尿するのも落ち着かない。ここは便所ではない。コピー機の用紙取り込み口は便器ではないのだ。

ロビーを抜けて一旦外に出る。敷地内に建てられた見窄らしい物置のような小屋。そこが公衆便所だ。

雪解けの、床が濡れている。赤錆の浮き出した斑のコンクリート。そこに西日だろうか、あるいは冬の朝日だろうか、日が当っている。きらきらとまぶしい。公衆便所独特の、水によって薄められた尿の匂いがする。

便所に入る。そこも陶器の便器がない。四角く浅いコンクリートで設えた囲みがあるだけだ。その囲みに向けて放尿すればいい。

だが残念ながら、前に使った人が下痢便をばらまき、ウニのような色をしたざくざくした便が囲いの中、そしてよく見ると床にまで撒き散らされている。臭いもたまらない。

ここで用を足す気が萎え、一旦外に出る。寂れた魚市場のような場所だ。長靴を履いて水をまいている魚屋の親爺のような男がいる。出てはみたものの、尿意には逆らえず、また入り直す。今度は別の便所を選んでみる。

さっきよりはましなようだが、ここも作りは同じだ。便器が無く、ただコンクリートの浅い囲いがあるだけだ。飛沫が跳ね返りそうで、ちょぼちょぼと注意深く用を足すしかない。

そんな所為で、いくら放尿しても、尿意が治まらない。

2006/1/2

役場の便所