駅の向かいにある乗り場の入り口から一歩踏み込むと、もうそこは別世界だった。景色が違うのである。いや、景色というより時代が異なるのかもしれない。駅前であるにもかかわらず、そこは広大な公園のようであり、しかし公園にしては人工的な気配がない。もっと自然な、そのままの、木々も土もそのままそこにあるような自然。駅前とは別の時間、別の世界が開けているようなのだ。

緑は一切無い。全体が茶色っぽい。そこを、客を乗せた馬が沢山、のんびり歩いている。ゆっくり、カパ、カパと蹄の音が聞こえてくる。

私は驢馬に乗った。白に近い灰色のたてがみから背中にかけて黒い線の入った驢馬に跨っている。

耳がピンと立っていて、ふかふかした毛に被われた首が背中に乗ったこの位置から見える。私はその長い首の付け根あたり両側に、両手を軽く、優しく添えている。

今日は上手く乗れている。前に乗ったときはもっと怖かった。振り落とされるのではないかと、怖かったのである。今日は不安もなく静かに乗れている。

落ち葉を踏みしめゆっくりと森を進んでいく。

乗っていた驢馬が熊へと代わっている。白熊だ。優しい大きな白熊の匂いがする。もしかすると驢馬も白熊も、死んだコルヘの化身なのかもしれない。でなければ匂いを知るはずがない。

終点に付くとそこは木造の、日当たりの良い庭に面して長い廊下、縁側の続く、懐かしい日本家屋である。私はその家に一人で暮らすフランス人形のような、白いフリル付きの黒い衣装を身に纏った「親戚かもしれない少女」へ伝言があって訪ねてきたのだ。

彼女は用事で出掛けていた。急に訪ねて来たのだから留守でも仕方あるまい。

待たせていた白熊が変身してしまったのだろうか。とっても大きな、白に黒い斑模様の入った猫が、体を丸めて、自分の後ろ足をペロペロ舐めながらじっとこちらを見つめている。

＊体の四隅に黒斑のある、白くてとても大きな猫、ヒトより大きな猫が体を丸くして、にょっと出した後ろ脚をペロペロ舐めながら、その大きな眼で、じっとこちらを見つめてる。

2007 12/22