今朝の事だ。静かで爽やかな朝だった。

いつものように二階の部屋で寝ていた。気付くと布団の脇にミユラサンが正座している。行儀よく、まるで病人でも見舞うよう、私の枕元できちっと正座している。私は寝足りない。まだ眠いのだ。布団に横になったまま、遠く石巻からわざわざ訪ねて来たミユラサンを迎えている。

ミユラサンが座る向こう、西側の窓は大きく開け放たれている。それで私道を挟んだ向かい側のアパートが近くに見える。向かいのアパートの二階も窓を開けている。並んだ二部屋の住人が、その窓越しによく見える。それは向こうからもこちらがよく見えるという事だ。こんなに近くだったか、いつもこんなに見える状態だったのかと、思う。左手の部屋からは若い女性が後ろ向きに見えて、誰かおそらく住人だろう男性が、その窓辺の女性に向けて話しかけているようだ。

もう起きないと、と思いながらも起きられない。布団に寝たままミユラサンの話に耳を傾ける。

マスオが大阪の老人のところに転がり込むらしいのだ。

大阪の老人。それは六十歳くらいと聞いている。迷惑だと言いながらもマスオの頼みを聞き入れたらしい。マネージメントを受け入れたようだ。ミユラサンはマネージャーの年齢が気に入らないらしい。もう六十を過ぎた人間がこれから売り出そうとするマスオを育てられるのか、という事だ。確かに高齢である。十年で七十歳、マスオが売れるようになったとしても、そのころには引退ではないだろうか。

しかし私にはその老人の年齢より、大阪で活動しようとするマスオの狙いが間違っているように思える。その老マネージャーとの出会いというのもあるだろうが、東京以外でこの仕事をしていくのは難しいのではないだろか。

ミユラサンはわざわざこんな話をしに石巻からやって来たのだろうか。

今思い出したが、ミユラサンは高校時代の渡辺さんに似ていなくもない。美術部で一緒だった渡辺さんだ。私宛に水色の便箋で古風な恋文をよこしてくれた渡辺さん。異性からの告白を受けて悪い気はしなかったが、どこか私を間違えて解釈している、買い被られているのだと感じてしまい、怖くなって避けてしまった。悪いことをしてしまったと思う。あの渡辺さんは今頃どうしているだろうか。

2006/06/30(金) 09:49:56