ニイカが頭にくっついてる。

いつものように、明け方ニイカがやってきて、眠っている私の頭を抱き抱えるようにからだを沿わせた。ああ、ニイカだ。と思ったが、そんなはずはない、と気づき目が覚めた。家で寝ていたのではない。ここは滞在先のホテルなのだから。

帰り道、阿佐ケ谷と荻窪の間を歩いてきた。

曇っているのか、それとも夜明け直後なのか、人もいないし、寂しい。阿佐ケ谷の線路沿いの、ごちゃごちゃとアパートやら小さな住宅やらが立ち並ぶ一角に、紛れるよう一軒の店がある。バーだろうか。お酒を飲まない私には関係ないけれど、モダンな看板のわりに店自体は住宅と区別がつかず、どれが店なのかわからない。

そのまま線路の北側を荻窪方向へ向かう。自宅のある南側へ向きを変えようとする。そして「楽しみ屋」の前を通るのだ。

一段低くなったところにある。斜め上から見下ろすように、店内の様子を見る。木造の、アルミサッシではない、木枠ガラスの古い住宅をそのまま店舗にしている。

ここはアイス最中がいいのだ。

大きな木のテーブルが置いてあり、民芸風の、背もたれのない丸木の椅子。そこに座布団が乱雑に乗る。客が読んだまま了わないマンガ雑誌で少し散らかっている。田舎の床屋のようにも見える喫茶店、というか茶屋。

ここは家から近いのだから、もっと来てもいいのだけれど、今日も素通りするだけだ。

気になるのは、あの重いトランクもコンピューターを入れた背負い鞄もなく、手ぶらで歩いていることだった。全部荷物を置いてきたようだ。ホテルへ電話して送ってもらうしかないだろう。

その後、眠っていて、ニイカの気配を感じた。いつものようにニイカが枕元にやってきた。生まれたばかりでとても小っちゃかった頃、私のおでこに乗っていたその癖が未だに抜けない。明け方になるとやってきて、寝ている私の頭を抱きかかえるようしがみつき、顎をおでこに乗せて、ぺろぺろと私の鼻を舐め続ける。そうして、そのままニイカも寝てしまうのが常だった。その、ふわっとしたニイカの毛が額にかかっている時の感触だけしたもので、すっかり家で寝ていると勘違いしていたところだ。まだメルボルンにいるのを、その時だけ忘れていた。

2006/08/08(火) 08:06:13 melbourne