いつもはカナエサンを見送る所までやってきた。ところが、今日は私が宿泊する。
木造の鄙びた個人商店が軒を連ねる。人通りもなく活気がないのに、ずっと、ただひたすらまっすぐ伸びる商店街、そこに一人、ぽつんと立っている。
昔隣町にあったような小さな商店街にも似ているけれど、ここは大阪のどこかにある町のはずだ。途中まではカナエサンと一緒だったのに、商店街の途中の、この場所で彼女とは別れてしまった。ここから一人で行動するのは初めてということになる。
この先をあまり知らない。今までは見送った後すぐ東京に戻ってしまうから、この先がどうなっているかなど、知ろうとしたことがないのだ。
ただ準備はしていた。毎回彼女が利用するホテルをあらかじめ予約しておいたのだ。しかしその場所も名前も知らないことに思い至ったのは、ぼちぼちと歩き始めて暫く経った時だった。今から戻りカナエサンから宿の名前を聞きだすのは無理だろう。仕方なくこのまま進むが、いつも彼女がここを真っ直ぐ進むからといって、この道の延長線上にホテルがあるとも限らない。ここは大阪の見知らぬ土地。そして大阪は大きい。いったい何処にその予約済みホテルがあるのか、皆目見当が付かない。
闇雲に歩いていると、そこがだんだん神社の参道のようになってきた。ところが私の歩く道は自然にその参道から逸れてしまう。横道なぞ無かったはずだが、どうしたわけかその参道に並行する小道に入ってしまった。
左手には鬱蒼とした森が茂るその小道、ジャリ、ジャリ、と音がする。ここは砂利道なのだ。そして右手を見ると参道の出店、屋台の裏側が見える。まだ昼間だから、露天商が夜店の準備をしている。どうも散らかっていて、水をくんだ桶だとか、段ボールなんかが、ミカン箱を立てておんぼろの座布団を置いた椅子代わりの物とか。そしてきっといつも一緒に移動してるのだろう、紐に繋がれた犬が隅の雑草の茂みにべたっと腹を付けてハアハア舌を出していて。例えば、近代化の所為でビニールやプラスチック製品がすっかり生活用具として定着してしまった遊牧民、その遊牧民の居住区へ余所者の私が迷い込んでしまったかのような、そんな感じに近いのかもしれない。
考えてみれば、ここが神社であるという証しは一切無い。鳥居を見ていないし、一向に境内らしき敷地は現れない。もっとも私は脇道に逸れているから確かではなく、ひょっとするとここから見えないだけで、あの参道の続きには社があるのかもしれない。だがそう思えばここは、よく犬の散歩に来る善福寺川公園でもありそうな風景だ。未舗装の遊歩道と草木が茂る一角を区切るフェンス、自然物と解け合わない薄緑色した金網状の柵。神社にそんな柵は不釣り合いではないか。そう、ここは単なる緑地公園なのかもしれない。
と、そう思ったとたん小道から開けた場所に出てしまう。砂利敷きの殺風景な空き地、駐車場のような場所に着いてしまった。
道はここで終わるが、私は言いようもない安堵感を味わってしまう。
思い出したのだ。ザウルスを持って来ていたことに。
ザウルスさえあれば目的地がはっきりする。予約確認の返信メールがあるはずで、そこにはホテルの名称と住所が記されている。
これであてどなく大阪の町を彷徨うこともなくなる。
ぎゅっと張りつめていた身体が、ゆるやかにほぐれていくのが分かる。
電車に乗っている。修学旅行だろうか。だが知り合いがほとんどいない。ようやくイマイを見つけ、彼と行動しようと思うが、実はイマイとは微妙な関係だ......
2005/08/17(水)
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2005年8月17日