青空の下
青空の下
美緒と二人で抜け出してきた。体操の時間をすっぽかし、裏門からこっそりと抜け出してきた。
敷地から出れば、そこには見た事もない午前中の世界が広がっている。家主を失い、物音一つ発てない青空の下の住宅。学校はそんな静寂に包まれていた。見慣れたつもりでも、登下校時以外のこの辺りなど、知る由もない。だいたい目と鼻の先にある、あの鉄筋校舎の中ではあれだけの人数が集まっているというのに、こんな静まり返っているのが、どうかしているんだろう。
校庭の外壁に沿って歩いていた。細く、見通しの悪いこの道を、黙って二人歩いていた。私は平気だが、彼女は少し後悔していたのかもしれない。よりによって私といるというのはどういうことなのか、自分でも説明できないんじゃないだろうか。誘ったり約束したわけでもなく、ただ偶然に、今日のようなこんな晴れた日に、体育の授業をさぼってやろうと思った、それだけの事で二人こうしている。
意識したわけもなく、私たちはなんとなく南側の、学校が一望できる高台まで来ていた。ここはボール避けの高いフェンスが建っている。フェンス越しに広がる校庭、そして鉄筋の校舎。みんなもう体操着に着替え、広い校庭の隅に集まって整列している。本来なら私も美緒も、今頃あの中にいるはずだったのだ。こうして抜け出してきた以上、いっそのことずっとこの光景を眺めてみようという気分になって、どこか居心地のいい場所はないか、辺りを見回してみた。住宅街の片隅の、少し行った所にトラックが留まっている。乗り捨ててあるかのように空荷のトラックが、ぽつんと駐車してあった。しかも都合よく、荷台には藁が轢いてある。屋根が無くたって、こんな人気の無い路地なら、誰にも邪魔されず、最高の見物席になるに違いない。
号令が聞こえる。それに合わせみんな規則的動作を繰り返している。二人くらいいなくたって何の乱れもなく、私と美緒の分も詰められて、見た目にはちゃんとした整列を維持している。ただ、教師は機嫌を損ねているだろう。一人ならまだしも、二人で、しかも男女で抜け出しているというのは、体育教師の最も嫌がることだ。
吹きさらしの荷台で愛し会っていた。上になって存分に、柔らかい女性のからだというものに自分を埋めていた。仲間たちは皆、真面目に授業を受けているというのに、それを見ながら私は美緒とこんな事している。恥ずかしくて、人には絶対見られたくない野蛮な事を昼間、トラックの上でやっている。罪悪感と優越感の入り交じる中、どうすることもできない快感に身を委ねていた。私はどんどん締め付けられる。そしていつかは思いきり解放されてゆくのを知っている。果てることへ向かい、夢中になっているのだった。フェンスの向こうでは、相変わらず体育の授業が続いていた。
一九九五年一二月一八日
1995年12月18日
青空の下