パンツの白いゴム紐

できないと思っているだけで、実は飛ぶなど容易い。

しかし飛ぶ、と云っても飛びっぱなしなのでなく、放物線を描いてジャンプして、落下を繰り返すのだから、確かに上空に留まる時間は短い。

横浜方面だろうか。郊外の高速道路、輪っかを描いたインターチェンジが真下に見える。上空を誰かと飛んでいる。

その後一人になっても空中を気持ち良く飛んでいた。きらきらする街の灯、夜空を滑空していたのだ。だが調子に乗っていたのがいけなかった。誤ってトンネルへ入ってしまったのだ。

天井の高いトンネル。その天井に背中をすり着けるよう飛んでいる。

薄暗がりの遥か下方に線路が見える。と云う事は列車が来るかもしれないわけだ。地形の所為で高架を通る地下鉄線、それが再び地下へと引き込まれる口、そこから坑道へ入ってしまったようなのだ。もうずっと、抜けることなく、トンネルが続くのだろう。

今は飛んでいるが時期落下が始まる。私が落下し着地した時に列車が来れば轢かれてしまう。そして、そう思うと、ゴーッという凄まじい音がトンネル内に木霊する。

列車が近付いているのだ。もう戻ることもできない。このまま天井ギリギリを飛び続けるしかない。すると坑道が広くなっている場所に出る。天井もさっきよりずっと高くなっている。ここで列車の通過を待とうとする。だが飛んでいると進んでしまうし、空中での静止は落下を意味する。何とかしなければと思いながら飛んでいると、天井部分に照明器具などを吊るす鉄パイプが通っていることに気付かされる。これに掴まってみる。しかし体重が重くて、自分の握力では掴まっていられない。飛ばないようにすると、いきなり荷重が懸かるようなのだ。そこで、パンツの白いゴム紐を試してみた。ゴム紐で鉄パイプに体を固定させたのだ。滑空している時は背中と天井が水平だったが、今度は体が縦になり宙吊りにぶる下がる。果たしてゴム紐で全体重を支えられるのだろうか。ゴムがびよんと伸びる。

遥か下に線路が見える。飛んでいる時は感じなかったが、こうしてみると高所は怖い。

警官がトンネル内を巡回している。見つかると注意されるだろう。

飛べるからと、迂闊に飛んでいたのがいけなかった。

2008年1月25日