私の通った小学校の体育館である。

体育館の中全体が水中となっている。体育館自体が水深の深いプールになっているようなのである。私もそこにいる。水中にいるはずなのだが、普通に息をしている。水の中だというのにそんな感じがしない。

ちぐはぐな色遣い、そしてあまり見かけない組み合わせ、着こなしをしている。そんなカジュアルな服装の女の子同士がおしゃべりをしながら歩いている。一人はくちゃくちゃとガムまで噛んでいる。水中なら髪が逆立ったり衣服が揺らいだりしそうなものだが、深いプールの中で普通に、直立姿勢でおのおの歩いている。

水の中だというのにそんな感じがしない。ただ音の聞こえ方は変わっている。水中らしく不思議な音で聞こえてくるのだ。

モンゴル人の中に水中で暮らす人々がいることは知っていた。ここにいる若い子たちは、そんなモンゴルの人々なのだ。

水の中で呼吸できるだけでも不思議なのに、息どころか、話したりガムを噛んだり、一体どういう事なのだろう。

思い切って訊いてみる事にした。

英語を使うしかないだろう。

誰でも良かったが、丁度近くに煙草を吸い始めた女の子がいたので、その子に英語で話しかけてみた。

「普通煙草は水の中で火が付かないでしょ？」

"usually～"という副詞を使ってみた。

初めは不細工な子だと思っていた。衣服も野暮ったい。白のブラウスに黒いタイトミニスカート、そして網タイツ。ハイヒールを履いていないから余計、不格好である。

そんな彼女も私の質問にけなげに答えてくれる。

プールの入り口には水のない空間が設けられている。そこで火を付け、ささっとプールへ入るという、しごく簡単な方法を教えてくれた。

訊いているうちに段々彼女が魅力的に見えてきた。案外美人ではないか。衣服も、これはこれで扇情的で、私を魅了するではないか。

火の点いた煙草は水に浸かればジュッと消えると思っていたのに、どうやらここではそうならないらしい。それで私は「信じられない！」と英語で叫ぶ。

体育館の壇上にずらっと、水から上がったモンゴル人たちが並んで座っている。舞台の縁に腰掛け足をぶらぶらさせている。そのうちの一人の男子が大皿に食べ物を乗せて彼女へ渡す。それを見て私は

She is not dog! 彼女はイヌじゃない！

とおどけて言うと、みんなが笑い、言われた彼女はわざと怒って見せて、私の頭を軽く小突く。

打ち解けた雰囲気が心地よい。

日本人である私と彼女が仲良くしているので、舞台に上がったモンゴル人たちは冷やかしているのである。

からかわれている彼女も満更ではなさそうである。

私は英語を間違えないように気を遣っている。

目が醒めて、どうもその子がテルコに似ていると思い始める。

2007年12月10日

水中で暮らす人たちは鳥海山のホテル、フォレスト鳥海に宿泊していたモンゴルの女子高生たちに違いない。フォレスト鳥海は11/15～16に宿泊している。1ヶ月近く経って夢に出たことになる。（もっともモンゴル人とは思っていなかった。中国人だと思っていたのである。後で撮影した写真を見て、バスに書かれたプレートでモンゴル人と分かったのだ。）