父を見舞う
2011年 8月22日
「男には女が必要なんだよ。」と母へ、思わず言った自分に驚く。
入院する父を母と見舞う。
先日より衰えている。
突然、娘の方が先に逝ってしまったと聞かされて、その日から病状が悪化したようにも汲み取れる。胃瘻の手術を待っている。
不気味なことに、手が勝手に動くのである。まるで意志を持った別の生物のように、寝ている父の両手がふいふい動く。
他人に指示を出しているような身振りにも見える。
両腕を宙に浮かせ、指先は何かを指すように、あるいは、何か、存在しないものを掴もうとするかのように。
多分制御できないのだろう。中脳が崩れていくとは、そういうことなのかもしれない。
両腕が勝手に動いてしまう。その動いた腕が、今度は言葉を引き寄せているようだ。動きと共に言葉が発せられる。
だがもう、何を言っているのか分からない。
「いつも私が来てしばらくすると顔色が良くなるようね。」
母が言う。確かにそうだ。目を瞑っていても、傍に母がいれば顔に赤みがさしてくる。
声が、母の声が父に作用してるのか。
遠い記憶、その情を交わした記憶が呼び覚まされるのではないのか。
男には女が必要なんだよ、と、母の言葉にそう返した自分に驚いている。
2011年 8月22日
病名が判明してからの父に関連する夢：