字が書けない

これから試験が始まるらしい。

畳の部屋は薄暗く、そして狭い。

和風旅館によくある、客間と入り口の間に設けられた化粧部屋のような所だ。そこに三人で正座している。同級生のタチバナ・ユウスケくんと、もう一人は女性で、タブン・トモミさんだと思う。座卓も三脚用意されている。そのタブン・トモミさんが座卓を三脚用意してくれる。

得意の日本史だから余裕だったが、ふと思えば漢字には自信がない。お復習いしておいた方がいいと思い、教科書を探し出す。持ち込んだ荷物の中に、大きめなポリ塩化ビニールで作られた書類入れがあり、更にその中からファイルアルバムを取り出す。教科書のページをカラーコピーし、そこにファイルしておいたのだ。

しかしカラーコピーされたページは一頁だけだ。しかも肝心な部分、写真は切り取られている。大陸との交易で使われた日本最古の印鑑、とても有名なその写真だけが切り抜かれている。

「あれっ、何て云う印鑑だっけ？」

とタチバナ・ユウスケくんに訊く。すると彼は

「久○印。」と教えてくれる。

私はその「久○印」という名詞を聞き取ることはできたが、字が分からない。

「久（ひさしい）に何？」とタチバナ・ユウスケくんに聞き返している。

試験は11時からだったと思う。時計を見ると、あと5分しかない。

2008 1/29

字が書けない