カタン・カタン
カタン カタン と音がする。
下から聞こえてくるようだ。
さっきから間を空けて、カタン カタンと鳴っている。
キツミだろうか。急に気になって、階段を降りていった。
例のあの格好だ。頭を下げて上目遣い。耳は畳まれぺたっと頭部に張り付いている。何かしでかしたのだ。
しかし部屋は散らかっていない。では何だろう、と床にオタマが一つ転がってる。絨毯の上に、小降りの、水を逃がす穴がぽちぽち開いたオタマが落ちている。
それがカタン カタン と音を発てていたのである。
昼食にご飯を炊いて味噌汁を作った。
その味噌汁の、味噌を溶くのに使ったオタマである。
台所のステンレス台の上、包丁とまな板の乗ったそこに置きっぱなしにしていたのだ。そこからくわえて持ち出してきたことになる。
僅かにこびり付いていた味噌を舐めていたのだろうか、カタン、カタンと。
こないだも桃を喰われた。
キツミは台所のステンレスの上くらい軽く届くのだ。
「入っちゃだめだと言ったでしょ！」
と叱り、打ってやろうと手を振り上げる。すると体を竦め、目を瞑る。
拾ってみると、持ち手の端、つり下げるための穴、そこからちぎれて無くなっている。僅かだが、そのプラスチック片は食べたのだろうか。飲み込んだのだろうか。
籐の鍋敷きを食べてしまったことがある。
しばらく、強烈な下痢で、部屋中汚された。
3日して、消化しきれなかった籐の固まりを吐き戻して下痢は止んだ。
プラスチック片は小さい。だからそこまでにはならないだろう。しかし危険である。台に手をかけオタマをくわえたとして、その横には包丁が置きっぱなし。包丁が落下したならどうなるのだろう.....。
油断ならないのである。
食事が済んだらすぐ片付けねば。
それで洗い物をする。すぐ仕事に戻りたかったので、流しにそのままにしていたのだ。
ちく、と何か踏んだ。
台所の床に落ちていた破片。オタマの、つり下げる為の穴、そこを境に食いちぎられた破片。ここで持ち手をくわえ、カタンカタンやっていたのだ。
キツミは油断ならないのである。
2010年8月4日
2010年8月4日
これは夢の話ではない
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